大江千里インタビュー~みんなが笑顔になるジャズ

アルクの月刊誌『ENGLISH JOURNAL』2018年10月号連動企画としてお届けするのは、大江千里さんのインタビュー。大江さんはシンガーソングライターとしてデビューして35年、今はジャズピアニストとして活躍しています。

ニューヨークを拠点にジャズピアニストとして活動する大江千里さんは、デビュー35周年を迎えた今年、「十人十色」「格好悪いふられ方」などのポップス時代のヒット曲をセルフカバーしたジャズアルバム『Boys & Girls』をリリースしました。東京に一時帰国した大江さんが、拠点を日本からニューヨークに移し、ポップミュージシャンからジャズピアニストへ転身した11年前を振り返ります。

「あなたの演奏には、聴く人を幸せにするパワーがある」

大江さんは47歳だった2007年末、ポップミュージシャンとしての退路を断ち、背水の陣を敷いて長年の夢だったジャズピアニストになるためにニューヨークに渡りました。

名門音楽大学の The New School for Jazz and Contemporary Music に入学。「ジャズの基本がなっていない」と、時に先生や同級生にあきれられながらも、「体に流れる『ポップスの血』を、すべて『ジャズの血』に入れ替えるようなつもりで」食らいついていきました。

「日本を発つときは、もう人前でライブをやることは、ないかもしれないと思っていました。本当にジャズピアニストになれるかどうかもわからなかったし、これからどうやって生きていくのかもわからなかった」

しかし、努力の成果は少しずつ表れ始めます。課される課題や試験にパスし、より高度なジャズの授業も取れるようになりました。「どんどん欲が出てきて、アメリカでジャズミュージシャンとして生きていきたいという気持ちも、強くなっていきました」

ちょうどそのころ、イスラエル人とアメリカ人のクラスメートとトリオを組んで、初めてライブハウスに出演することが決まりました。

「僕がリーダーを務めることになったので、MCをやらなくてはなりません。ジャズライブですから、下を向いてぼそぼそ話し、渋くキメなくちゃと思っていました。でも、ついつい昔取ったきねづかで、『ヘーイ!そこのみんなも楽しくやってる?かっこいい曲だろう?』なんてやってしまって(笑)」

学校では、パフォーマンスの授業もありました。最後の授業で、先生のラタニャさんが大江さんに言いました。「あなたには、人を幸せにする才能がある。あなたが舞台にいるとみんな笑顔になり、あなたの演奏で心が癒やされる。あなたのパフォーマンスにはそんなパワーがあるということを、絶対に忘れないで」

大江さんは振り返ります。

「それまで僕は、自分のジャズのパフォーマンスをよくないと思っていました。『もっとクールに、ジャズミュージシャンっぽく構えなくちゃ』と思って。でもラタニャにそう言われて『そうなんだ。これが僕の持ち味で、ほかの人にはない得意なところなのかもしれない。そういう部分を伸ばせばいいんだ』と自信になりました」

Senri Oeが、大江千里を“料理”した

8月にリリースされた『Boys & Girls』〈世界盤〉は、大江さんにとって5枚目のジャズアルバムになります。このアルバムについて大江さんは「ポップス時代の大江千里を、ジャズの Senri Oe が料理した」と表現します。

「自分の曲をカバーするのは難しいです。もともと『これがベストだ』と、当時の力を出し切って作ったものですから。それに、当時から聴いてきたファンの人の中には、それぞれの『Boys & Girls』が出来上がっています。単にジャズアレンジするだけでなく、意味のある進化をさせないといけない」

「でも、それが行き過ぎると『原曲にあった“胸キュン”が全然なくなっちゃった』となってしまう。どこまでならちょうどいいのか、どれがかっこいいのか、美しいのか、みんなの共感を呼べるのか、本当に苦労しました」

『ENGLISH JOURNAL』10月号の「あっぱれジャパニーズ」では、大江千里さんのインタビューをさらにお楽しみいただけます。世界中からジャズミュージシャンが集まり、日々しのぎを削るニューヨーク。「ジャズピアニスト Senri Oe」はどうやって生まれ、今どんな生活を送っているのでしょうか。大江さんの英語メッセージも収録されていますので、必聴・必読です!!

大江千里さんの活動予定

デビュー35周年記念 セルフカバーアルバム『Boys & Girls』絶賛発売中!

www.sonymusicshop.jp

『Boys & Girls』アルバム発売に際し作成したPV『ありがとう Arigato』

取材・文・構成:大井明子(ライター)/須藤瑠美(ENGLISH JOURNAL編集部)
写真:田村 充

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